取材陣(以下、取)/まず、『汗』はなぜ出るのですか。
原口先生(以下、原)/気温の暑い時や運動などによって身体が熱くなり過ぎた時に、身体の温度を下げる為にエクリン腺という汗腺から汗を出して熱を発散します。(生理的発汗)
また、その他にもストレスによって発汗する精神性発汗(ウソ発見器はこの汗を感知しています)や辛いものを食べた時に発汗する味覚性発汗もあります。
取/では、多汗症とはどのようなものなのですか?
原/体温上昇やストレス等が原因で起こる発汗が通常よりも多い状態です。安静時でも衣服がぬれるくらいの汗が出る事もあります。しかし病気という訳ではありません。健康な10代の人に結構見られます。部位としては、全身の場合もありますが、手のひら・脇・足の裏など部分的なものもあります。ワキの場合は両側性で掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)(手のひらと足の裏の多汗症の病名)を伴う場合が多いようです。手足の多汗症では冷たく感じます。
取/多汗症になりやすい人、遺伝などはありますか?
原/はい。多汗症は遺伝傾向があると言われていますがまだはっきりとはしていません。
肥満気味の人や妊娠中の人は多汗症になりやすく、他には更年期障害などのホルモンバランスの乱れや甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)や糖尿病といった病気の症状だったり、その他ステロイド剤を使う治療の副作用でも多汗症になることがあります。
取/それでは、自分で出来る多汗症の対処法は?
原/ワキガの原因であるアポクリン腺の汗と違い、エクリン腺の汗はそれ自体は臭いません。しかし、長時間放置することによって汚れや細菌と混じって臭いが発生します。
従って自分で出来る対処法としては、こまめに汗を拭き清潔にする。うちわ等で扇いで風通しを良くする。制汗剤を使って発汗を抑える。
簡単なことですが、これだけでも大きく違います。もちろん取りすぎは良くありませんが水分は適度に補充する事。
取/なるほど。ではそれでも気になる場合、病院の治療はどのようにするのですか?
原/病気が原因の多汗症は、もちろん病気を治すことで改善されます。それ以外で、発汗を抑える治療法はいくつかあります。
- 薬液塗布/塩化アルミニウムなど、汗を抑える働きをする金属性の薬液を発汗が気になる所に塗布する方法です。これは、皮フ科や総合病院で処方してもらいコットンなどに染み込ませて持ち歩き、こまめに塗布する必要があります。
- 交感神経ブロック・切断術/発汗を促す交感神経をブロックして発汗を抑える方法です。これは定期的に処置する必要があるので、効果があれば交感神経切断術を行います。この方法での効果は長期間続きます。しかし手のひらの発汗を抑える為にその部分の交感神経に麻酔をかけても、それ以外の部位から多汗症の症状が出る(代償性発汗といいます)場合があります。代償性発汗が著明な場合はかえって嫌がられることがあるので、まず一度テストしてみてから効果を確かめます。
- 剪除法(せんじょほう)/ワキガの時に説明した方法(ワキガvol.1・ワキガvol.2参照)で、ワキの多汗症の場合に他の治療が効果が無い時に選ばれる治療法です。皮フの裏側の汗腺の部分を削ります。表面の切開部分はワキのシワに合わせて切るので、殆どのケースでキズ跡は目立たなくなります。
ただ手術してから2~3ヶ月の間は、キズ跡が硬くなり縮こまります。なので、高い所のものを取ろうと手を伸ばした時に手術した部分がつれる様な感覚があると思います。
また、毛根の部分を削っていくので、針脱毛やレーザー脱毛程の効果はありませんが薄くなるという脱毛効果もあります。
- ボトックス/ボトックスを注射し、発汗時に収縮して汗を出す筋肉を緩める方法です。これは1度の注射で(個人差がありますが)4~8ヶ月程効果がありますので発汗の多くなる春~秋の時期にあわせて1年に1~2回の注射で済みます。保険は利きませんが治療効果が高く、手術でもなく気軽に行える治療で最近では第一選択の治療法といえるでしょう。
取/治療頻度や傷跡を考えるとボトックスが一番いいような気がします。
原/そうですね。多汗症は一生のものではありません。一番のピークから歳を重ねるにつれ、発汗が減り乾燥してきます。後々のことを考えると全く止めてしまうのもどうかというのもあり、必要な時にだけ年に1~2度注射すればいいというボトックスは患者さんによく選ばれる治療法です。
取/手術だけじゃなく、様々な治療法があるのには驚きました。悩んでいる方は一度相談に行って自分に一番適した対処法を確認してみると良いですね。 今回もありがとうございました。
|